学生のうちに知っておくべき月配列のこと

(元ネタ:http://pha22.net/hotentry/title/s/%E6%9C%88%E9%85%8D%E5%88%97/297/)*1


 月配列とは、コンピュータを用いて日本語を入力するときに用いる、かな入力手法の一種である。
 日本語入力史上初めて「(膨大な打鍵速度データを収集し、計算配列を複数設定した上で、そこから手動評価打鍵で配列を選別するという)近代的な設計手法*2」を用いて作成された「JIS X6004」を親に持つ、子配列群の総称ということもできる。
 「月」の字は「花鳥風月」の「月」に由来するものであり、「配列、飛カナ配列、単漢字IME」」に続くものとして名づけられた。


 【全体最適を目指そうとして失敗した例】と見なされがちな親配列特有の欠点を払拭するため、子配列群である月配列系においては、名誉回復のために?様々な追試が行われてきた。

  • 月配列1系列においては、親指or小指によるシフト方式にとらわれずに「中指でシフトする」という「花配列」の仕掛けを取り込んだ。
  • 月配列2系列においては、夏真っ盛りに「薬指プレフィクスシフト」が話題に(→月配列Ux版が関連)。
  • 月配列3系列においては、拗音シフトが花開く。
  • 月配列4系列においては、配列設計プロセスの前半部分を現代風にトレースする「GA配列」が登場。
  • 月配列5系列においては、濁音シフト配列をGAで設計する拡張案が登場。

 一見しただけでは「月配列とはいえない様に見える」GA配列でさえも、根っこの部分ではしっかり「JIS X6004つながり」である……というところが、親配列の持つ「懐の深さ(あるいは先見性)」をあらわしているのかもしれない。


 JIS X6004の配列生成プロセスが巨大であったためか、月配列系においては「そのうちのいくつかをトレースする」か、あるいは「公開済み配列の小改定を行う」ことが主に行われてきた。そして、それらの結果が「匿名の」掲示板上にさらされた上で「きちんと揉まれて」評価されているため、それぞれの配列に対する評価打鍵の結果は比較的フラットなものとなっているはずである。


 現在、日本語入力法については「議論」と言う名の「負の遺産」を引きずり続けている部分があり、必ずしもフラットな評価に出会えるとは限らないという事情がある。
 そういった世界において、月配列系は珍しく「コンセプトの広い範囲にわたって、多数の人間がけん盤配列を精査してきた」経緯を持っている。
 将来には「けん盤配列全体について」月配列系内部と同レベルの評価行為をなされることが期待されており、月配列系はそういった評価の仕掛けを「先取りしてうまく活用している」例と言える。


 あなたが「日本語入力技術について思い悩む」学生であるならば、まずは月配列系に触れてみてほしい。
 あなたにとって月配列系が「手指にしっくりと来る」かどうか……というところについては保証できない*3ものの、少なくとも「作業手順変更という行為が持つチカラ」を感じるには適した教材である。
 月配列を通して「日本語入力法の奥深さ」について感じ取っていただけたなら、この文を書いた意味はあった、ということになるはずである*4

月配列系に関する、極めて個人的な基準で並べた候補。

 個人的に「特に印象に残った」ものを、とりあえず例示してみることに。

  • 「満月」──月配列2-263版、月配列系の「実用初版」であり、現時点でもなお「強力なベンチマーク」と見なされているもの。
  • 「幽月」──月配列U9RC2版、親指シフト風のけん盤配列構造を持つ「4シフト制」で、孫配列への展開が行いやすい。
  • 「帝月」──月配列3-285改版、ローマ字入力のような打鍵感をかな系にとりこんだ「拗音シフト」の採用が肝。
  • 「無類月」──月配列(GA)4-698版、月配列2-263風の配列であり、これをGAにより再設計したもの。
  • 「真紅月」──月配列(GA)5-315版、飛鳥カナ配列風の配列であり、これをGAにより再設計したもの。

 それぞれに「JIS X6004つながり」のつながり方が異なっているため、お好みに合わせて配列を選択されたい。
 もちろん、ここに掲げたもの以外にも、月配列系として多数の配列が提案されている。
 特に吟味したい場合には、該当掲示板の過去ログを読み漁る必要も出てくるはずである。

月配列系に関する残課題。

 すくなくとも、次の配列については、まだ研究可能な余地が広く残されていると考えられる。

  • 「帝月」系配字理論と「無類月」系配字理論の組み合わせ。
  • 「帝月」系配字理論と「真紅月」系配字理論の組み合わせ*5
  • 「無類月」系配列の、長期間評価打鍵による大幅な調製行為。
  • 「真紅月」系配列の、長期間評価打鍵による大幅な調製行為。

 これらの分野については、今後特に急激な進展を遂げる可能性がある。

*1:……実際に「学生さんにとって役立つ」かどうかは解らない……のだけれど、個人的には「こんな解説文だったら(惹かれはしないけれども)納得しそう」という感じかなぁ。もしも「嘘」が書いてあったりすると洒落にならないので、そういうのを見つけたときにはご指摘いただけると助かります。

*2:いまだに「打鍵速度測定×計算配列×手動評価打鍵」を掛け合わせるという手法を完全にトレースする例は、21世紀のけん盤配列世界においてもほとんど見られず、「打鍵速度測定×計算配列」か「計算配列×手動評価打鍵」といった中途半端なトレースにとどまっている(というか、3つを全部やるには「ど根性+技術+何か」が必要であり、そもそも普通の人間なら手を出さない。また、人力で完全トレースを試みると数万時間を要するらしいことが明らかになりつつある)。

*3:これはけん盤配列界隈における「常識」の一つ。最短で「手指にしっくりと来る」入力法を案内できれば最高!なのだが、残念ながら現在の技術ではそれを提案する方法は発見されていない。

*4:……てゆーか、月配列系は「目の前に起こった事柄を並べるだけで、話が綺麗につながる」から、書いていて楽しいんですよね……なぜだろう。

*5:2009年2月17日23:19:28追記── http://keybor.web.fc2.com/index.html をご覧頂くとわかると思われますが、少なくとも真紅月(月配列(GA)5-315版)と「拗音拡張規則」の組み合わせでは、メリットを引き出すことは出来ないようです。