質問「紙媒体の業界はこれからかなり厳しい状況に追い込まれていきそうですが、出版社や絵本業界などはどのようにして乗り越えていくべきと考えられますか?」に対する私的回答。

(言及:紙媒体の業界はこれからかなり厳しい状況に追い込まれていきそうですが、出版社や絵本業界などはどのようにして乗り越えていくべきと考えられますか?)

 回答を見ると、それだけで10ptあたりを消費するはずですので……とりあえず貼っておきます。

 それぞれの出版社が、自社の商品をどういう考えで扱っているかにもよりますが……。


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 紙媒体には「製本後、断裁するまで税金が掛かり続ける」という不思議なルールがあるらしく、これが原因で古い書籍の入手が困難になるという現状があるようです。
 http://www.mita.cc.keio.ac.jp/econ/gendaishiso/syllabus/021220.htm
 これを出版側が「当然」と取るか「もったいない」と取るかで、大きく変わってくるのかもしれません。


 また(紙に限らず)物理的な方法で販売する媒体には「中古媒体の販売を抑止できない」という都合もあります。
 http://www.jc.u-aizu.ac.jp/11/141/thesis/msy2003/06.pdf
 日本では前出のとおり「出版元が売れる見込みのない本を在庫しておくことが困難」なだけに、中古媒体の販売だけを抑止しようとしても、上手くシステムが回ることはないと思われます。


 仮にこれを「電子媒体化し、データの(譲渡不可能な)閲覧権利を販売する」仕掛けにすれば、少なくとも後者の問題は解決するはずです。
 前者については「後追いで法律が変わって」課税されるかもしれませんが……。
 今のところは「書籍の上に乗せるコンテンツ」と「書籍の入れ物となる媒体」を一緒くたに扱っているところもあるようですが、必ずしもこのままでい続ける必要はないはずです。


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 とはいえ、電子媒体化もバラ色ではないところが困り物ですね。


 一つ目の問題としては、「閲覧権利を所有しているかどうかを確認するのが容易ではない」事でしょうか。
 ネットワーク認証ですと、たとえばソニーによる「レーベルゲートCD」の例があげられます。
 http://www.sonymusic.co.jp/cccd/
 このように「ニーズが薄くなったから認証サービスを終了」ということになれば、電子媒体に対する信用そのものがガタ落ちになってしまう恐れがあります。
 また、認証用のソフトウェアが新しいOSに対応できなければ、その時点でおしまいであるという点も危ういですね。
 DRM(デジタル著作権管理)が付いた記録媒体を使うという手もありますが、これも単独では使い勝手があまりよくないかもしれません……。


 二つ目の問題としては、「デジタル媒体は紙媒体よりも遥かに陳腐化しやすい」ことでしょうか。
 たとえばゲーム機・デジタルカメラ・プリンタ・オーディオデバイスの進化に見るように、人間の感性は時代を経るごとにどんどん贅沢になっていきます……その一例を。
 http://www.ykanda.jp/came.html
 このページを製作されている神田さんという方は、「椿の花」を多数写真として掲示されています。
 このページをご覧いただければ、新しい機材で撮影されたものと比べて、古い機材で撮影されたものはどうしても絵が荒く感じてしまうということが見て取れるはずです。
 もちろん、「椿の花が綺麗であること」そのものを伝えるにはなんら問題がないのですが、「10年前のデジタル技術でデジタル化したデータ」を今見た場合の感覚はつかめると思います。
 いま「綺麗だ」と思って見ているデジタルデータも、10年後には同様に見えてしまうはず……この点については把握しておく必要があると思います。
 こちらでは「JPEG」形式で写真を展示しているので「今でも変わらず見ることができる」のですが、仮にこれが「既に廃れたフォーマット」で収容されていたりすると、下手をすればコンテンツを閲覧すること自体ができなくなってしまう可能性もあります。
 紙媒体と比べて「(色々な意味で)寿命が短い」点に注視して対策を講じられるかどうかが、電子媒体化の鍵なのかもしれません。


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 著作権管理機能を有する「出版用の汎用フォーマット」があればいいのかもしれませんが、たとえばPDF形式では「携帯端末で見るには閲覧しづらい」というところも気になります。
 デジタルデータであるからには「デバイスサイズに見合う表示ができること」が望まれるはずで、最終的には「ComicSurfing」のような「少ないコマ数ごとにページ送りをする」方法が選択されるのかもしれません。
 http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0406/15/news082.html
 デバイスサイズの問題については、絵のみを扱うコンテンツのみではなく、文字+挿絵のようなコンテンツでも考慮されるべきですね。こちらも「デバイスサイズに見合ったページ送り」などを柔軟に行える仕掛けが必要ですので。
 また、文字を「絵ではなく文字として」扱う場合は、デバイスが持つ文字セットが常に同じとは限らない点にも注意が必要です。有名どころではこんな感じでしょうか。
 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20061122/254684/
 デバイスによって文字の形が異なってしまう現象を回避するために「フォントデータごと埋め込んでしまう」という手もありますし、割り切って「デバイスにある文字のみを表示する」という手もあります。


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 最終的には、
「出版元は原本を紙のまま&精細なデジタルデータの2本立てで保管する」
「表示サイズが異なるデバイス向けに、それぞれに適した電子データを作成し販売する」
「技術革新があれば、それに対応する電子データを作成し販売する」
「必要に応じて、オンデマンドプリント(簡易製本)により紙媒体の書籍を提供する」
「ある程度まとまった数が見込める場合は、その版のみを通常の書籍として製本し販売する」
著作権管理については、【DRM(デジタル著作権管理)付き記録媒体】を【ユーザID】に結びつけて行う」
……あたりが、落としどころになるのかもしれませんね。


 以上は素人考えですので、もしかすると矛盾があるかもしれません。
 また、この分野について調べたのがだいぶ前なので、知識的に古いところもあるかもしれません。
 それでは、長文失礼いたしました。