(memo)日本語における行段系で、子音(C)と母音(V)は、それぞれどちらの側の手におけばよいのか……とかとか。

 ええと……考え方として。
 日本語では、音声としてはCVCとなってしまう(母音脱落)パターンが若干ある……けど、表記形態としてはほぼVまたはCV(あるいはCV{V})になる。
 ただし、行段系にも「母音拡張」を使う場合、Vの実質打鍵数は少し減る。


 日本語についてローマ字適応をする場合、厄介な問題がある。

  • 運動精度から考えて「誤打鍵率低下」を主眼とすれば、音素の少ないVは非利き手・音素の多いCは利き手に割り当てたい。
  • 運動頻度から考えて「手指の保護」を主眼とすれば、頻度の少ないCは非利き手・頻度の多いVは利き手に割り当てたい。

 欧文だと、CVC構造で「音素も頻度もCのほうが多い」から、単純にCを利き手に割り当てれば「無策でも合理的」になる……けど、和文行段系では上記のように特性が違うので、「音素と頻度、どっちが利き手にとって重要か」を、天秤に掛ける必要が出てくる。
 #とはいえ、後年Sholesが考えたように「頻度順に、母音と高頻度子音を右手に寄せる」ってゆー策も採りえるので、解法は一つではない、けれども。


 日本語の場合、結局はCV単位で文字が割り当てられているから、『Cだけ』『Vだけ』と括ると、CVマトリックス内の頻度ばらつきについて、頻度に見合った設計をするのが難しい。
 ……で、そんなのめんどくさいから「CVがセットになった、かなを単位にして再配置するほうが、カリカリチューニングしやすいじゃん」ってことで、いまでも「かな系」の案がバリバリ出てるし、実際打鍵数で攻めるならこっちのほうが手っ取り早かったりする、と。


 あと、和文行段系について【子音(C)と母音(V)の、どっちをホームポジションにより多く突っ込むべきか?】ッてのもある……けど、これは答えが決まってる気がする。

  • コピータイピングをするなら、次の運指への影響が少なくなるように、母音(V)をホームにするべき。
  • 創作タイピングをするなら、母音(V)のあとに休止が挟まることによる「遅さの感じにくさ」を上手く活用するほうがいいから、むしろ子音(C)をホームに詰めて「初速の体感的な速さ」を重視すべき。

 ……ってゆー、それだけの話だと思う。
 計算上の速さだけを見ていると、「人間が創作タイピングをするときのこと」が抜け落ちやすい……のだけれど、こういったところは「色んな配列を作って実際に評価打鍵しておく」だけでも、ずいぶんとその考察抜けを防止するために役立つと思う。
 鍵盤配列を作りたいと思う人のうち、ほとんどは「豊富な打鍵経験がある」わけだから、その豊富な打鍵経験を持っている「指さん」に、直接聴いてみるのが一番確実かな、と……こーゆーところは「計算配列+俺配列」に取り組む方が増えてくれば、自動的に広く認知されるのではないかな、と。


 計算配列か否かに関係なく、人って「広ければ音節単位、狭くともモーラ単位の中では余裕率ゼロで打つ」けど、それら同士のセパレーションについては「いくらか勢いが止まるので、わずか〜かなりの、余裕率をとってもいい」ことになる……から、狙うなら【欧文だとCVC単位・和文だとモーラ単位くらいは、運指の絡みなくスムーズに打てるようにする】事を重視して、それら同士のセパレータについてはいい運指なんて割り当てなくても良いと思う(ってゆーか、セパレートされるところに良運指を割り当てる余裕なんてないと思うので、そこで良運指を浪費しないようにするほうがいいと思う)。
 ただ、そのときに「何でもかんでも交互打鍵に逃げよう」って考えるんじゃダメで……手の苦手な「利き手→非利き手」シーケンスが、うまいこと「余裕率をとってもいい、重要ではない連接」と重なるように設計するとか、そういう「計算上の速さだけで詰めるのではなく、体感上遅くても構わないところには、わざわざ速くて美味しい貴重な運指パターンを浪費しない」ように設計するとか、そういった工夫も必要になってくる。


 うーん……鍵盤配列を設計するときには、もしかすると「文字単位のn-gram」だけじゃなくて、「モーラ単位・音節単位のn-gram」も必要なのかな……。
 こうなってくると、morogramじゃなくてmecabとかの出番になるんだっけ?
 ここら辺は手捏ね配列だと「指さん」が無理やりナントカしちゃう領域なのだけれど、計算配列についてやるときには、たとえば「て・に・を・は」や「ゃ・ゅ・ょ・っ」でKWICして、そこから逆方向に見ていくとか、ちょっとした「設計前段階の工夫」が必要になってくるのかも。
 この手のことは、新JISではやってなくて(あれは「゛」と「か」の2文字を基準にして、運指速度から「左→右」が速いから、「か」を左手・「゛」を右手にしよう……って決め方だったし)、たぶん最初は「TRONかな」(変換キーをかぎとして、そこから逆方向に追っかけてる)あたりかな。乱暴なのだとNICOLAの「い・う・ん」もそうだけど……あれはちょっと狙いが違うような気がする。


 「考え方」を「計算配列に織り込む」ってのは、実際すごく難しい……のだけれど、実運指特性のうち、現状では上手く絡め取れていない「余裕」の部分を計算配列へと織り込むことに成功すれば、その分だけ「より少ない評価打鍵・より少ない微改定で、より実践的に使ったときの引っ掛かりが少ない」配列を探索しやすいと思う。
 こういうところを分析するには、たぶん「創作タイピングそのものを打つときの、実打鍵速度」と、「そのときに打った文章の、構造解析」のようなことも必要になって、それと国語的な考察を組み合わせて「計算配列にインクルードするべき、考え方」を作り出す必要があるのかな、と思う。


 今後の鍵盤配列設計が、どこまで高度化するかはわからない……けれど、いまのうちに「高次の要求を満たす計算配列は、何を満たしているものになると思うか」ってのを、アレコレと考えておくのもいいのかな……。