『紫苑の書』、読了。

(未来:【配列確定】かえであるか配列、チンパンジー(lime)版……じゃなかった、かえであるか配列改0訂0案3版。 - 雑記/えもじならべあそび)
(未来:『紫苑の書』xion-20101003.pdf版を読了。 - 雑記/えもじならべあそび)

 作者さんには申し訳ないのだけれど、「アルカ」については勉強せずにほぼ読み飛ばしつつ、ざっと一読みしてみました。
 通算で8時間くらいかかったかなぁ……。


 導入部がちょーウザったい表現で「こりゃダメだ、たぶん肌にあわねぇ……」という感じだったのですが、あのウザい表現が「初月紫苑」というパーソナリティを印象付けるスパイスになっている以上は、他にはどうにも処理しようがなかった、のかも。


 私はライトノベルとかをさっぱり読まないので解らない……のですが、作品としては面白いです。
 これを読んでいて思い浮かんだのは……

  • クリス・ボイス『キャッチワールド』
  • ケヴィン・J. アンダースン『無限アセンブラ
  • ジェームズ クラベル『23分間の奇跡』

あたり。全然ジャンルとかが違うけれど、こういったものと同じような「引き込むチカラ」があるな、と感じました。

「アルカ」について、ざっくり見渡してみて思ったこと。

  • 新言語って、「世界観というか、ストーリー」と一緒に提言しないと、覚えにくいんだな、と。
  • 語長も音も圧縮したい、でも「喋る時のコストに比例した負荷」と「書くときのコスト」を無視するわけにはいかないから、効率よく豊かな表現もできる言語を設計する……ってゆーのは、ふつーの人間ができる芸当じゃなさそうだな、とも思った。
    • 飛鳥カナ配列の「足掛け2世紀、実質9年」でも大変だと思うのだけれど、それよりもっとたくさんの時間を費やしてるはずで……。
    • それと、「打つコスト」について考えるのは、配列屋が泣きながらやればいい話*1であって、これは言語設計にとって必要ではない、と。
  • あと、言語内に「性差」「年齢差」「地方差」とかを含めることはできるだろう……けど、言葉も他と同じく「歴史とともに、古いコトが押し出されていく」=「ことばが生きている」から、言語仕様をがちがちに決めても「登場人物が生きる時代に流されて、言語使用は変えられてしまう」ことは、止められないよなぁ……と。
  • 語が指す意味の範囲はすごく狭くて、なんというか、入力法で言うところの「速記系入力法」っぽい香りがする。中国語の単漢字みたいに「転じて○○も意味する」みたいなのがないから、「たくさんの語を覚えるまでが大変で、覚えてしまうと取り違えにくい」ってのは、特徴として面白いよなぁ……。
  • パッと聴いた感じだと、アルカは「言語として『音』が美しいようには思えない」のだけれど、音楽に乗ってるアルカが全然違う印象を持っていたりする……ので、正直言って「習得したときに、どう感じるか」というのは、初見のままの印象ではなさそうな気がする。
  • アルカの文字『幻字』については、デザインに【統一性がない】ことが、すごく気になる*2。これだけ筆記文字がよく出来てるのなら、文字から「角ばった要素」を取り去ってもよかったのではないかな……とか、そんな印象を受けていたり。あと、「反転文字などが適度に組まれていて、覚えなきゃいけない字形をきちんと圧縮してある」ってのは良いと思う。
  • 覚えられそうか?と問われれば【絶対無理。】なのだけれど、覚えたら楽しそうか?と問われれば【もちろん!】って言うだろうねぇ……ただ、文字の筆記コストと文字頻度があっているとすると、たぶん「Qwertyでは左手が厳しく、Dvorakでは右手が厳しそう」な予感がするから、キーボード配列は専用に作らなきゃダメなんだろうけど。

ふと思ったこと。

  • 新言語の文字は、設計当初〜設計中期にかけては、とりあえず英字転写で済ませるべきだと思った。
    • 相当の文章を作ったあとで「n-gram」にかけて、「一番よく使う連接から順に、連ねて書きやすくなるように」と「連ねて書いたときに、字形崩れによる誤読が発生しにくいように」文字を割り当てていくしかないな、と。
    • 「大文字」が必要ない構造の文字を使う場合、シフト側(英大文字が入っている側)を全部記号類にするのが良いかも、と。
      • ただ、英小文字と英大文字の紐付けに問題が出るから、こういうのも「配列設計のあとに」やらなきゃいけないけど。
    • ある意味、「英字転写したときに、Qwerty/ISOが使いやすくなるように、英字の使用頻度をわざと傾けて言語設計する」ってのも、アリなのかな、と思った。
      • ただ、これをやると「a」の音を意図的に減らさなきゃいけなくなる……から、個人的にはあんまりよくない気もする。

*1:もっとも、「言語設計もできる配列屋」とか「配列設計もできる言語屋」が集まったら、相当に面白いのが出来そうな気もするけど。

*2:ただ、「書きなれていない」事による影響は、すごく大きい気もする。私が書くと、もうな感じで、とてもじゃないけど「文字についてどーこーいえる状況じゃない」ってのが、自分でも解るし……。