Re:iPhone日本語入力とボケベル打ち
(言及:iPhone日本語入力とボケベル打ち)
……ええと、メチャクチャ有名な方に対してこんなことを言っていいものかと躊躇うところはあるのですが、「誤りが交じったまま情報が伝播すると非常に困る」ため、あえて指摘させていただきたく思います。
入力方式としての新JIS(JIS X 6004、旧JIS C 6236)に採用された「シフトキー」については、
- ローマ字入力での子音キーと同様に「単独前置(Prefix)で押す」操作をしたときに最大効率が出せるよう設計されていて、この機能は同規格で必須とされている。
- シフトキーをA段(最下方の機能キー段)中央付近に配置することは、同規格書において明確に許容され、解説にその理由が明記されている。
- 検討段階の実験ではセンタシフト方式とサイドシフト方式の両方が使われていて、その差については同規格の解説に明記されている。
という事情があります。
当時の規格書については神田泰典さんが複写を公開されていますし、当時の資料群については国立国会図書館に現物が保存されています。
個人的にはこの規格について、当時普及していた「8ビットCPUが載ったワープロ専用機で」ソフトウェアエミュレーションするには、これがぎりぎりのところだったのではないかと考えています*1。
結果として得られる新JISかなの入力感触は「50音表における、行と段からの縛りを解いた、ちょっと変わったローマ字入力」的な印象になるはずであり、入力方式としてのリズムそのものについて言及しようと試みるのには、少し無理があるのではないかと考えています。
もっと現代寄りの話としては、いま新JISかなの意思が「月配列」へと引き継がれているという事情がありますし、月配列以外にも中指シフト系のけん盤配列に関する検討例が見られます。
そういった方式での配列検討を続けていらっしゃる方から見た場合、今回ご指摘の内容については「まるでピンとこない……」というリアクションが帰ってくるだけなのかもしれません。
#中指シフト系の50音順配列を数例作成し使ったことがあるのですが、「日本語入力のリズムについて大きな問題を抱えている」かのような感触というのはありませんでした……単純に好き好みの問題とするべきところ*2なのではないかと思います。
どうしても新JISを否定しなければならない事情があるのであれば、たとえば
- センタシフトの実装を「必須」ではなく「許容」としてしまったことを指摘する。
- キーボードの段ズレによって、右手小指シフトが遠くなっている(JISキーボードにおける「ろ_」キーが新JISの右手小指シフトキー)ところを指摘する。
- 濁点・半濁点を後置(Postfix)で入力する方式であることを指摘する。*3
といったカタチで、規格そのものと整合性のある指摘を行うことが必要なのではないかと思われます。*4
現時点ではネイティブ新JISユーザさんによる意見を拝見することがほとんどない*5ためか、新JISかなに関して「明らかに誤解されていると思うところを指摘する方があまりいない」という点は、個人的にはとても悲しいことだと思います。
私は「変種の親指シフト系配列使い」ではありますが、それ以前に「日本語入力法そのものに興味を持つ者」です。ゆえに、日本語入力法というものの姿が「可能な限り正しい姿で多くの方に認識されること」を期待しています。
*1:ローマ字入力ですらも遅延するような機種が普及価格帯に存在した(たとえばPanasonic/FW-U1J70はそうでした)ような状況では、「親指シフト用のまっとうな同時打鍵ロジック」をソフトウェアエミュレーションしても、果たして使い物になったのだろうか……と。
*2:私自身は親指シフト系の「かえであすか」という入力法を使っているので、「親指シフターさんが表現したいと思うこと」については一応理解しているつもりでいます。ただし、だからこそ「新JISに関して誤った認識を広めることは、親指シフトにとってマイナスにしかならない」とも感じています……誤解したまま批判するということは、翻って【親指シフトについてロクに知りもしない人が、親指シフトについて批判するという行為を許してしまう】ことと等価であり、これは非常に危険だと思うからです。
*3:FOMA/D800iDSの特製2タッチ入力以外のほぼすべてが持つ「ポケベル入力/2タッチ入力/かなめくり入力」についても、またiPhoneの入力法についても、同じ問題(?)から開放されずにいますね……IMEの予測変換機能で対処する方法が普及し始めているようで。em1keyの作者さんが公開されているctrlswapminiにからんで、この問題について配列側で対処するための「改造ポケベル入力法」がいくつか提案されています……たとえば、この日記でさまざまな意見をいただきつつ作成した「かえで携帯配列」は、そういった提案のひとつです。
*4:もっとも、新JISかなをエミュレーションできるソフト(たとえば「菱(ひし)」など)を使う場合、前2者については「親指シフトエミュレータと全く同じように」解決可能ですので、いずれも今となっては弱い指摘にしかならない……という事情はありますけれども。
*5:私自身は、新JISかなを1990年代にわずか1日しか使ったことがないのです。