キーボード配列QWERTYの謎を読了。

キーボード配列QWERTYの謎

キーボード配列QWERTYの謎

 注1:本書は「安岡先生のガイドつきで」当時の歴史をたどるからこそしっくり来る、という要素もあるので、「先頭のページから順に読んでいく」事を、強くお勧めします。
 注2:以下には「ネタばれ」が含まれています。本書を楽しみたい方は以下を読まずに、そのまま書籍を購入してご覧ください。

個人的に興味があった話。

  • (すみません、いったんここに書いたのですが、本書pp.9-10の話は伏せることにしました。)
  • 文字符号の歴史―欧米と日本編の内容のうち、本書に関係する部分が整理されたうえで本書にも載っている。
  • いわゆる「配列屋」は、いつの時代にも存在していたらしい。ショールズさんが1876年頃に作成した「これは思いっきり右手用右利き用配列じゃないの?」的なけん盤配列(pp.47-50)があったり、グリフィスさんという方が1949年頃に作成した「これは飛鳥カナ配列(あるいはTHD配列系)のコンセプトにそっくりじゃないの?」的な省運指けん盤配列(pp.164-165)などもあったり。
    • 「何を最適とみなすか」というコンセプトが違えば、当然「出来上がる配列の姿」も違った形になる……という、当たり前の姿が、当時のけん盤配列そのものからもにじみ出ている気がする。少なくとも本書が扱った範囲内においては「人によって最適なけん盤配列は異なる」という事実は確認されていない……のだけれど、本書pp.96-99で提起された「八百長疑惑」など、興味深い話もあったりする*1
  • 「外方運指法」は「たまたまそう使われるときもある」というレベルの話であって、実際にそれを前提に運指法が定められたことはなかった……と。
    • そのかわりに、昔は今で言うところの「人差し指伸領域」が「人差し指領域」とされていて、今で言うところの「人差し指領域」は「人差し指・中指兼用領域」のように捉えられていた……と。これはQwertyで「T・H」が「人差し指伸領域」にあったから……という配列由来の話ではなくて、そうではない配列でもたいてい似たような運指法だった様子(詳しくは本書の各配列挿絵を参照のこと)。

どんな人が読むと楽しめるか。

  • 単純に、Qwertyが好きな人。
  • Dvorakが好きだけれど、Qwertyが嫌いにはなれないという人。
  • Qwertyが嫌いだけれど、アンチQwerty演じるときに、しくじりたくはない、という人。
    • 本気でQwertyアンチだという人が読むと、この本を読んだあとに、相当気分が悪くなるんじゃないかなぁ……という気もするので、そういう方にはお勧めできないかも。
  • 2〜3時間を使って、ある分野における140年分の歴史をなぞってみたい、という人。
  • Qwertyがらみのガセビアを知らずに披露して赤っ恥をかくのはヤだ、という人。

雑感。

  • Qwertyネタに関して、はじめて(?)「安心して読める本が出た!」という感じだろうか。
  • 文字符号の歴史―欧米と日本編にも増して、取り上げられた図版の「生々しさ」が印象深い。とても緻密に書かれたタイプライタ本体の模写図版があるかと思えば、字間やベースラインがメチャクチャに崩れているタイプライタ打ち出しの原稿があったり……と、元の図版が持つ印象の強烈さには驚かされるものがある。
  • けん盤配列に興味がある人なら、読んでおいて損はないと思う。
    • 少なくとも、彼女彼氏らが成してきた功績と、彼氏彼女らが犯してきた過ちについては、(遠回りを避けるためにも)知っておくほうが良いと思うので。

おまけ。(2008年3月28日23:26:58追記)

 ふと思い立って、以下のような質問をしていたことを、ついさっき(終了通知メールによって)思い出した……ので、とりあえず追記。


QWERTYの謎(注:最近出た同名の書籍についてではなくて、「QWERTY配列がどうやってできたか」という伝聞)についてお尋ねします。

あなたは、QWERTYの謎について、何か知っていますか?
(これはダミー項目です) 7
詳しく知っている。 25
少し知っている。 100
知らない。 193
(これはダミー項目です) 3
 はてなダイアリー市民を対象にしても、この状況……ということは、一般的にはもっとずっと関心は低いのかも?

 こんな状態で「なんとなく納得できるガセネタ」を見せられたら、そりゃあガセかどうかの判断なんて付くわけがないよなぁ……と。

*1:2008年3月16日0:43:08追記。別のメモを書いていてふと思ったのだけれど、親指シフト(富士通)に関する速度計測テストにも、M式(NEC)やQwertyローマ字入力(シャープ)のような行段系に関する同テストにも、同じように「(それをわざとやっていたのか、知らずにやっていたのかは別として)特定の入力方式が不利になるような、練習用テキストに対する小細工」をしていたのではないかと思い始めていたり。親指シフトの速度が有利になるように計ろうとする場面では「どの入力法も分け隔てなく、ホームポジション練習からはじめている」とか、行段系の速度が有利になるように計る場面では「どの入力法も分け隔てなく、50音図練習からはじめている」とか……入力法に見合わない練習法を用いれば習得が遅れるのはある意味当たり前なので、公開された情報だけを見て【そこで実際に行われた様子をまったく無視して】結果を引用するのは危険なのかもしれない……って、シャープの場合はバーチカルメソッドだったかな、そうするとあれは別なのかも?うーん……はっきりとしたものはつかめないのだけれど、とりあえず心の片隅には記憶しておいて、そのうち調査対象にするかも。