月と飛鳥を比較する意味はあるのか、NICOLAとローマ字入力を比較する意味はあるのか。

 さいきん飛鳥スレッドでチラッと出ていた話なのだけれど、これは「客観的に」比較する方法が存在しない気がしますね……。
 ほかの誰かがどう思ったのかを表明したところで、それは「評価した方自身にとっての評価」であって、「その評価を目にした方にとっての評価」と等価にはなりえないですし。
 「評価した方自身にとっての評価」については、数が集まればそれなりの意味を持ってくる(これはオーディオにおける主観評価の集合と同じ理屈)はずなので、利用者が増えて「比較検証される機会が増えてゆくにつれて」自然と何らかの評価はなされていくはず……と期待しています*1


 ……とはいえ、NICOLAキーボードスレッドでの流れにもあったように「利用者がたくさんいてもまともに比較検証なされていない*2」ところもあるようで、これを比較するためには「一人で主観的に書いても有用なレビューが生成されるような、何らかの比較ルール」が必要になるのかも……と思い始めていたりもします。

 あたりをはじめとして何度か書いているのですが、基本的には

○○入力方式は優秀であり、××入力方式は劣っている!これは定説だ。

  • あなたは××入力方式が嫌いですか?
    • ××入力方式で実際にタッチタイプできるようになってから、そういう言及をすることをお勧めします。
      • 使ってもいない××入力方式についてあれこれ文句を書いたとしても、あなたの批判にはまったく説得力がありません。
      • 使ってもいない××入力方式との比較文章を書いたとしても、あなたの説明にはまったく説得力がありません。
    • あなたがもし○○入力方式と××入力方式を両方使いこなせるのでしたら、どうか両方の利点と欠点をなるべく公平に記述願います。
      • 「あなたとは違う結論に至った人が見ても納得できうる指摘」が多くなされていれば、その指摘は多くの方にとって有用となるはずです。

の条件が満たされていない限り、役立つレビューにはならない気もします。
 #もっとも、この条件を満たしていてもなお、ヘッドフォンに関する好き嫌いの問題と同一で「レビューする方自身がどちらのコンセプトを好んでいるか」という問題は大きく絡みますので、一人で客観的な意見を出すのは事実上不可能だとは思いますけれども。

レビュー方法に対する提案。

 これらの問題をふまえて、ひとまず「好ましいと思われるレビューの方法」を提案してみたいな……と。
 それはとても単純で、【3点比較】をする……というものです。

  • まず、大前提として3つの入力方式を習得すること。
    • 主に比較したい配列──仮に○○配列とする──を習得する。
      • 仮に対象が【飛鳥カナ配列】であれば、それをそのまま採用する。
    • 比較したい配列に似た配列──仮に△△配列とする──を習得する。
      • 仮に対象が【飛鳥カナ配列】であれば、似た配列……たとえば親指シフトつながりで【NICOLA】や【小梅】などを採用する。
    • 比較したい配列と異なる配列──仮に□□配列とする──を習得する。
      • 仮に対象が【飛鳥カナ配列】であれば、かなり異なる配列……たとえば非カナ系の【Qwerty/JISX4063ローマ字入力】を採用する。
    • ○○配列・△△配列・□□配列のうち、少なくともひとつには【世間様によく知られた入力法(ローマ字系ならQwerty/JISX4063、かな系ならJISX6002)】を採用すると、より「多くの方にとってわかりやすくなる」ので好ましい。
  • 3つの入力方式について、それぞれ1対1での比較をすること。
    • まず、○○配列と□□配列の比較をする。
      • ここはたいてい行われている……けど、強烈な主観がついていたり、見当違いの多い意見があったり、あるいは「まず○○配列を賞賛して、次に□□配列をけなして……」という結果ありきの意見も散見され、(配列系でいろいろいじった方の意見を除けば)現状ではあまり参考になるものがない気もする。
    • 次に、○○配列と△△配列の比較をする。
      • ここでは「コスト対ベネフィット比」の問題が出てくる……けど、かえであすかを作ってみて「それを言っていては比較検証をするための土台を作ることができない」気がしてきた。ゆえに、ここは欠かすわけにはいかない気がする。
      • いろいろいじってきた方は、たいてい(1対1での比較をする場合であっても)ここを掴んでからやっているはず。
    • 最後に、△△配列と□□配列の比較をする。
      • これは「オマケ」として書いている……のだけれど、「○○配列と□□配列の比較」と「○○配列と△△配列の比較」をまじめにやっているのかどうかを見極めるためのベリファイとしては必要(使いもせずにテキトーにでっち上げられたレビューは、ここでかならずボロが出るはず)。

 これを思いついたキッカケは、「飛鳥カナ配列の改造」でした。
 「かえであすか」を作っていると、どうしても飛鳥と比較してみたり、親指シフト系の配列を意識してみたり、Qwerty/JISX4063ローマ字入力を意識してみたり……と、(明示的に意識してはいなくても)いろいろな配列との相違を意識しつつ作ることになり、バランスのとり方についていろいろと考えさせられてきました。
 そんな経験から、ある鍵盤配列の有効性を恣意的に主張する*3には、すくなくとも他に「似た配列をひとつ」と「異なる配列をひとつ」を使いこなせるようにしてから、初めて意見を述べるほうがよいのではないかな……と感じました。

このレビュー方法を使って「Qwerty/JISX4063ローマ字入力」を擁護しようとする場合の比較対照。

  • ○○配列には、普段使っているであろう*4Qwerty/JISX4063ローマ字入力」を採用する。
  • △△配列には、普段使っているであろう「Qwerty/JISX4063ローマ字入力」に近い配列──たとえばAZIKなど──を採用する。
  • □□配列には、普段使っているであろう「Qwerty/JISX4063ローマ字入力」とは考え方が異なり、かつ使用者が多い配列──たとえばカナ系の「JISX6002かな入力」など──を採用する。
    • どうしても4段配列は打てない……という場合は、たとえばカナ系の「月配列2-263版」などを採用する。

このレビュー方法を使って「JISX6002かな入力」を擁護しようとする場合の比較対照。

  • ○○配列には、普段使っているであろう*5「JISX6002かな入力」を採用する。
  • △△配列には、普段使っているであろう「JISX6002かな入力」に近い配列──たとえばJISつながりで「JISX6004カナ配列」など──を採用する。
  • □□配列には、普段使っているであろう「JISX6002かな入力」とは考え方が異なり、かつ使用者が多い配列──たとえばローマ字系の「Qwerty/JISX4063ローマ字入力」など──を採用する。

このレビュー方法を使って「NICOLAかな入力」を擁護しようとする場合の比較対照。

  • ○○配列には、普段使っているであろう*6NICOLAかな入力」を採用する。
  • △△配列には、普段使っているであろう「NICOLAかな入力」に近い配列──たとえば親指シフトつながりで小梅など──を採用する。
  • □□配列には、普段使っているであろう「NICOLAかな入力」とは考え方が異なり、かつ使用者が多い配列──たとえばカナ系の「Qwerty/JISX4063ローマ字入力」など──を採用する。

この方法でレビューするときのポイント。

  • 使いこなせてもいない入力法を「あたかも使いこなせているかのようにごまかす」行為は行わない。
    • そんなことをしても、3点レビュー方式ではほぼ必ずバレるから、無駄だとは思うけれど。
  • 3点レビュー方式で比較する限りは「Aがよいと思う点・AとBで変わらない点・Bがよいと思う点」という形で「よい点」は書いてもかまわないが、「悪い点」は書く意味がない(Aの利点はBの欠点である)ので省略すべき。
  • 「はじめに結論ありき」で書くよりも、比較していて素直に思った点を書き連ねるほうが、結果的には役立つレビューになると思う。

このレビュー方法の問題点。

  • 3つの入力方法を覚えないといけない。
    • これは「架空レビュー」を防ぐための制限なので、取り除くわけにはいかないのです。
  • ○○配列に対して「似た入力法」を習得しなければならない。
    • これは「○○入力法」の利点と欠点を「誰にでもわかる形で」書くために必要。
      • たとえば「○○入力法」の利点を説明するために、「○○入力法」とはまったく異なる入力法をいくつ並べたところで、「○○入力法」の利点を適切に説明することはできないはずですし。
      • ここができていない方による「○○入力法」の利点解説は、【それって他の配列でも実現してるだろ?】と思うようなところについての説明がなく、「慣れているから好き」との分別ができていない不可思議なレビューになりがち。
      • 四半世紀前ならともかく、今は「派生配列・類似コンセプトの配列」がそろいつつあるので、ようやく3点レビューに必要な条件が整ってきた……という事情も。
  • (異なる入力法を習得するよりも)似た入力方法を習得するほうが難しい。
    • この部分のレビューを書くために、相当の時間を掛ける必要が出てくると思います……が、勘違いを除去して「役立つレビュー」を書くには、どうしてもその手間は必要になると思います。
    • いろいろな配列を試してきた方ほど、この種のレビューは書きやすくなると思います。
  • このレビュー方法は「特定入力法貶し」「特定入力法盲信」をする人に対する嫌がらせにしかなっていない。
    • その方による「勘違い」を氷解させることが主たる目的ですから(←棒読み)。
    • そこまで情熱があれば、これぐらいの障壁は乗り越えて「ばっちり誰にとっても役立つレビューを書く」能力を発揮してくださるのではないかな……という期待を込めていたり。

注意点。

  • 単純に「特定配列を使った感想」を書くだけであれば、わざわざこれを行う必要はないはずです。
    • ここでのポイントは「比較」のみに限った話ですので。

*1:すでに飛鳥スレッドでばっちり指摘されているとおり、この方法は使い手が安心するためのもの……という方向性を持ちそうです。

*2:コスト的に比較検証が困難だった四半世紀前では認められても、比較検証のための障壁が少なく比較対照配列も多い今となっては「なんか、説得力がないよねぇ……」という話になる、という意味での話。昔の研究成果は「あれはあれで良い」のだけれど、今からやるなら「自分で複数の入力法を試す機会がある」はずなのだから、それを有効活用しないと……ね。

*3:個人的には、恣意的に主張したりするよりも「単なる意見を並べる」だけのほうが有用だとは思いますが……。

*4:そうでなければ擁護しないですよね?たぶん。

*5:そうでなければ擁護しないですよね?たぶん。

*6:そうでなければ擁護しないですよね?たぶん。