ローマ字入力の教育法と「普及率」の関係。

(参考:「英文キーボードによる日本文入力について」)

 延々と疑問に思っていた点について、ようやく答えが見つかりました。
 「英文キーボードによる日本文入力について PART II」のpp.6-8を見ると、こういう感じの記述があります(注:全文掲載するのは面倒なので、要約します)。

  • 欧文タイプの練習方法には「水平練習(ホーム段→上段or下段練習)」と「垂直練習(始めから段またぎ練習をする)」がある。
    • 水平練習は単語練習が後回しになり飽きやすい(そういえば、「飛鳥のために」は水平練習だけど単語練習なんですよね……だからうまく行くのか、なるほど)
    • 垂直練習というのは名前だけで、実際には行単位での50音練習。「あいうえお」とか「がぎぐげご」とかの練習をする。
  • 50音練習3日、非拗音単語練習3日、拗音練習3日、拗音単語練習3日……というテキストを組んだ。この練習は20分/日ペース(同日に入力実験を20分/日ペースで平行)。

 うーん……結局ローマ字入力をするために英字練習をするのはあまり効果が無いのかもしれない。


 そうそう、それと「英文キーボードによる日本文入力について」で【ローマ字入力がかな入力よりも早く覚えられる】というデータが得られた理由のヒントが、「英文キーボードによる日本文入力について PART II」に書いてありました。
 「英文キーボードによる日本文入力について PART II」のp6から意訳すると、

ということ……「英文キーボードによる日本文入力について」には練習法・練習メソッドの記述がまったく見当たらなかったことと考え合わせると、シャープの実験ではいわゆる「タッチタイプ教本」を一切使っていなかったようなのです。
 それでは当然「操作数ではなくキー数が少ないほうが習熟速度は速い」わけで。
 ローマ字入力は「覚えるキーが少ない(これは練習しないと習得できない)・その分が綴りの解釈がある(これは元々頭で考える作業であり、始めからシャドー式である)」のだから、シャドー部の少ないかな入力よりもシャドー部の多いローマ字入力の方が「見かけ上習得しやすい」ですね。
 これでようやく「(ワープロ教本を使ったから)ローマ字入力よりもJISかな入力・親指シフトのほうが速く習熟できた」とする富士通調査との差異(=結果が逆転していた理由)がハッキリしたみたいです。
 つまり、両者の調査は「それぞれの調査方法をとる限りは矛盾していない」ので、たとえば入力方式に関して「どちらが覚えやすいか」を論じる場合には、片方の論文のみを持ち出してどうこう言うのは誤りだということになります。
 ……あれ、そういえば両者の論文を比較した論文って見たことがないような……。


 ローマ字入力における50音練習はそれなりに効果があったらしく(始めは個人差でばらついても、数日すれば学習していた方が一様に早く入力できる)、その点も考え合わせてみると、結局のところは

 安直な方法でもいいから、とにかく練習法に沿った練習を併用すべき

なのかもしれません。


 ……テキスト無しに力技で覚えようとするとローマ字入力の方が速く覚えられる、とあれば、時代がローマ字入力に向かったとしても不思議じゃないですな。
 ついでに、同じ考え方でケータイが「テキスト無しに力技で覚えやすい」カナめくり入力に向かうのも当然ということ。
 ローマ字入力だから」とか「かな入力だから」という入力方式は関係なくて、要は「力技でタッチタイプを覚えやすい方法だから普及した」というだけの話。


 うーん……親指シフトを本気で普及させようとするならば「力技でタッチタイプを覚えやすい」方法に転換させるための「力技習得用補助テキスト」が必要だと思います。
 専用キーボードの箱に即習用テキストを同梱してしまうとか、雑誌広告1pを丸ごと練習法だけにするとか、そういう努力……じゃなくて工夫があれば大丈夫なのではないかな、と。


 とりあえず、「かえで式50音順Qwertyローマ字入力」を作成した後になってからこれらの資料を見ることが出来てよかったです。
 作成と閲覧が逆順だったら絶対これらの資料に引っ張られて、妙な方向に突っ走っていただろうし。
 ちなみに、今キー配列にかかわっている方々がこれらのシャープ文献(と参考先にある東芝文献)を見る価値は……今既にローマ字入力が出来る方ならば、多分見る必要はないと思います。既にWeb上で公開されている部分を先取りしていたという歴史的価値はあるのですが、逆に言えば既に公知の物ばかりなので、ほとんど得るものがないのですよ。