「母音順五十音シート」に、こっそりJISかな版シートも追加。ついでに新々JIS配列についても考えてみた。

 先日作成した「Qwerty英字鍵盤によるJISX4063ローマ字シート」のパッケージ、先日のメモにて「Qwerty英字鍵盤のシートを追加」したと書きましたが、次はJISかな版のシートも追加してみました。


 印刷した「Qwerty+JISX4063ロマかな」「JISX6002かな」の各シートを2つ並べて見比べてみましたが、こうして「ローマ字綴りは一切無視」「JISかなのまとまり配置も一切無視」なシートを見てみると、ふと思うことがあるんですよね。

 両者共に「キーボードを見ながら入力」「キーボード自体が教材という雰囲気」があるのかも……?

 なぜにこんなに定義が無駄にあいているのだろうか?

 この2つの選択肢だけで、本当に「多くの方が満足できる」「多くの方が効率よく快適に日本語入力できる」のだろうか?


 「キーボードを見ながら入力」「キーボード自体が教材という雰囲気」のある配列そのものは今後も絶対に必要(実際、それで満足できている方が大勢いらっしゃることは色々な記述から推察できる)だと思う一方で、逆に「キーボードを見ずに入力」「教材は別途用意」を前提(絶対的条件)とする配列が一つもJISには存在しないというあたりには、ちょっと違和感を覚えてしまうわけです。
 #要するに、「見ながら入力」できるという利点の存在しない配列(いわゆるバラバラな並びの配列)が必要だと思うわけです。現行の2つは「見ながら入力できる」のですが、その制約にとらわれない選択肢が欲しいわけで。


 というか、そろそろJISX6004を復活してもらえないですかね……今すぐには無理だとしても、10年以内には何らかの形で「規格として」復活していただきたいところではあります。
 で、ここからは単なる妄想なのですが(^^;)、JISX6004をもし復活することとなった場合、公開レビューが募集されたらこういう事を書いてみたいな……という事を下記に記してみることにします。
 あくまでも妄想なので、その点にご留意いただきますようお願いいたします。
 (ちなみに、現段階では素案すらない状況なので(当然か)、ここでは単に「書きたいことも書いている」だけだったりします……ゆえに、本当にこういう制定話が出たとしても、本文を流用するのはおそらく無理かなと思います)

【JISX6004廃止後の現状について】

 現在、国内には僅か2つの入力方法……「JISX6002かな入力」と「Qwerty英字鍵盤を用いたJISX4063ローマ字変換」の2種類が公的規格として存在します。
 このシェアはワープロ時代からパソコン時代への変化と共に「かな入力→ローマ字入力」へと移り変わりましたが、ここには「シェアの変移はデフォルト配列の変化が元となっていて、個々の実使用者自身が抱えている事情はあまり考慮されていない」ことを前提にせねばならない事をまず書かせていただきます。

 現在最も普及しているPCは「Windowsが走っているPCAT互換機」ですが、これらは標準で搭載されているIMであるMSIMEがローマ字入力をデフォルトとしており、かつ「ローマ字入力」「かな入力」の切り替え方法やモード表示方法の提示が不親切であることなどが災いしていて、
  「ローマ字入力以外のモードに切り替えることでいざこざを生む可能性がある」
  ↓
  「ローマ字入力から変えるな!使い終わったらローマ字に戻せ!と騒ぐ人がいる」
  ↓
  「ローマ字入力がデフォルトとなっていった」
という状況を生み出していることを確実に認識すべきかと思います。
 このあたりは「ローマ字入力 かな入力」のキーワードでWebを検索いただければおわかりになるものと思われますが、とにかく現状の表記方法はあまりにも不親切であり、これは早急に改善されなければならないと感じています。

 このことはワープロ時代のかな入力にも言えることでして、ローマ字入力への切り替え方法が各社でバラバラだった事・JISかな入力(富士通の家庭用ワープロ親指シフトが標準)が標準だったことは、そう記憶に遠くないと思われます。
 もっともワープロ時代には、画面上のどこかにほぼ必ず「入力モード」が「固定位置に文字で」表示されていたわけで、大抵の機種が「かな・ローマ字」キー一発で常に必ず切り替え可能な機種も存在しただった(Panasonicワープロなど)のですから、昔はだいぶ親切だったと思います。
 翻って近年では、この入力モードの表示が極めて不親切であり、また表示位置も固定されていないため、初心者ならずとも「どこを見ればモード表示がなされているのか解りづらい・どう操作すればモードを変移できるのか解りづらい」状況にありまして、この状況は配列の問題とは別個に、かつ早期に改善されるべきかと思います。
 (このあたりのアフォーダンスが不足しているために「ローマ字入力から変えるな!使い終わったらローマ字に戻せ!と騒ぐ人がいる」とも言えるわけでして)


【最適解は本当に2つなのか?という問題について】
 さて、本筋である「文字配列」へと話を戻しますと……。
 現在までに、日本語入力の方法として大変沢山の方法が提案されています。全ての配列を公的規格として導入すべきかというと、必ずしもそうはならないようにも思いますが、一方では「多種多様の入力方法が提案され、また実際に使用されている」ことは、すなわち
  「現行の標準入力方法だけでは多くの打者にとって快適な入力方法を提供しているとは言い切れない」
という事実を指し示しているのかもしれません。
 これらの試みを妄想ではなく実際に行うためには「パソコンに関する知識がそれなりにあること」が絶対条件となり、その時点でかなりのユーザがこれを行うことなく諦めている可能性があることを考慮しますと、実際にはより多くのユーザ層が「現行の日本語入力方法に不満を持っている」と考えるのが自然なのかもしれません。


 これは、比較的キー配列を弄りやすいパソコンでの配列変更案が多数存在していることと比べて、同程度に不満が出やすい携帯電話用の配列変更案があまり提案されていないことに現れているように思います。
 現に、かつては妄想なり構想なりといった段階で頓挫していたかもしれないパソコン用のキー配列が、現在ではそれをサポートする「キー入力入れ替えソフト」の登場や、それの使いこなしに関する情報交換を行うなどするという経緯を経て「作成したキー配列を現実に使用し、使用感を元により良いものへと変えていく」というアクションが取りやすくなったことが大きいと思います(7年間も変わり続けている飛鳥配列の様な例も存在しますし、今後はこういう事が増えていくかもしれません)。
 一方では携帯電話に関してはこういう方法論を実現する手段がなく、結果としてキー配列に関する話題が携帯電話ではあまり存在しない(既存の入力方法からしか選べない)のかもしれません。


【人間は機械ではないということについて】
 現行の入力方式を廃止する必要はありませんが(私はJISX6004を規格から廃止したこと自体を「大きな失態」だと思います)、そのほかの入力方法に関しても「規格として制定可能な確固たる根拠があれば」JIS規格化することについて拒絶する理由はないように思います。


 本来JIS規格は「ユーザと物体とのインターフェース(Human-Marerial-Interface)」と、「物体同士のインターフェース(Machine-Material-Material-Interface)」とをハッキリと分けて規格制定しているものと思います。
 その中で「キー配列」というものは「ユーザと物体とのインターフェース(Human-Material-Interface)」であり、「物体同士のインターフェース(Material-Material-Interface)」ではありません。
 であるならば、ユーザ自身がJIS規格に制定可能な「物体」ではない以上、現在ある規格に「人間が合わせる」事はそう容易ではない場合も存在するのではないでしょうか。
 例えばJIS/ISOにも規定されている「ISOねじ類」にこれを照らし合わせてみると、ねじ山のピッチ・ねじの頭にある溝・(スパナの場合は)ハンドルの長さなどについては「物体同士同士のインターフェース(Material-Material-Interface)」であり、一方で持ち手の形状について(スパナにも「JIS超」と称する柄の長いものがあり、本来はこれも含めて)「ユーザと物体とのインターフェース(Human-Material-Interface)」であろうと思います。


 「物体同士のインターフェース(Machine-Material-Material-Interface)」は統一される方が便利です。なぜならばこれらは「ユーザが直接触るわけではない」のですから、ユーザの利用意向に左右される必要がありません。もっとも、どの程度深い部分に触れるかによって「どこまでをインターフェースとするか」は異なりますが(例えばOSを作る人にとっては、マシン全体さえもHMIと捉えることが可能である)、そもそも文字入力というもの自体は限りなくHMIに近いものであり、逆にMMIからは非常に遠いものだと考えます。
 「ユーザと物体とのインターフェース(Human-Marerial-Interface)」は統一されてしまうと、必ず使用者によって得手不得手が発生してしまい、好ましい状況とは言えなくなります。人間は物体とは違って規格化製造が可能な代物ではありませんので、この差を吸収するべきは本来インターフェース側の役目であろうと思います。


 これらの事情から、キー配列という「極めてHMI的な代物」についての公的な選択肢が少ないという現状は問題視されるべきかもしれず、少なくとも「私的な選択肢としてのこれらを採用することすらできない」というのは非常に問題があると考えています。


【規格を廃止するに足る証拠を示して欲しいと言うこと】
 かつてJISX6004が廃止された折には「使用実態がない」という理由付けで廃止されましたが、これについてはいくつかの疑問点がある様に思います。
 そもそもJISX6004かなは「本当に使用実態がない」と確認されたのでしょうか。単に「販売実績がないから廃止」というのはおかしな話でして、実使用者が居る限り「使用実態がある」とするべきではないでしょうか。
 また、参考資料に添付されているNICOLAに至っては更に「使用実態がない」という状態からはほど遠い現状があるわけですが、これについても本当に確認をされたのでしょうか。
 JISX6004が廃止されてから2006年までで7年間が経過していますが、この間に「より入力しやすい入力方法を使いたい!」という要求はそれなりに登場し、「より入力しやすい入力方法を作成したい!」という方もそれなりに現れました。現行の公的入力方法ただ2つで一通りの要求が満たせるのならばこれらの要求はそもそも発言するはずはないことから考えますと、より多くの規格(少なくとも、基本となる配列については一通り)が必要になるのではないかと考えます。


【新しいJIS文字入力規格に望むこと】
 次の記述が盛り込まれることを希望します。これらは全てバラバラの規格にする方が良いかもしれません。

  • 【必須】多数の入力モードのうちどの入力モードにあるのかを表示(人間に対し提示)するため、解りやすく誤りのない表示方法をいくつか規定すること
  • 【必須】多数の入力モードを容易に切り替えるため、解りやすく誤りのない切り替え方法をいくつか規定すること
  • 【希望】JISX6004かな配列を正規規格として復活させること。
  • 【希望】JISX6004かな配列を元としたもののうち、少なくとも一つの配列を正規規格に採用すること。
  • 【希望】JISX4063ではない規則を用いたローマ字入力のうち、少なくともQwerty系で一つ・Dvorak系で一つの配列を正規規格に採用すること。
  • 【希望】同時打鍵系配列に関する言及を行い、少なくともそれのうち一つの配列を正規規格に採用すること。
  • 【希望】漢字直接入力配列に関する言及を行い、少なくともそれのうち一つの配列を正規規格に採用すること。
  • 【希望】多数の鍵盤配列を切り替えて使用するため、これらの制御はソフトウェアもしくはハードウェアのどちらで実装しても矛盾がないようにすること。
  • 【希望】必要ならばキーボードに同時打鍵タイマと多数キー同時打鍵対応機能を実装することを規定すること。

 これらを全て実現するためには多数の考慮すべき点があるため、これらを全て解決できれば「他のキー配列を用いた入力方法」を行うために必要な障壁のうち多数が改善されることとなり、それは結果として「現在たった2つの配列しかない状態であっても様々ないざこざを引き起こしている」という悲しい現状を解決するためにも役立つものと思います。


【新しいJIS文字入力規格の制定段階に望むこと】
 とにかく、「色々な入力方式をやっている人・色々な入力方法の実現に携わっている人」の意見ををきちんと採用する・そもそもそういう人を制定時に参画させる必要があると思います。
 そういう人自身にも色々なバックグラウンドがあって、どうしてもその人が使う配列に意見が偏ってしまうこと自体は仕方がないとは思いますが、それでも「既存の公的規格しか知らない方だけを集めるよりは百万倍マシな結論を見いだせる」可能性があると思います。
 和文入力に関してはまだまだ改善できる余地があきれるほどに残っているかもしれません。故にその芽をより良い方向へと伸ばすための施策が、そろそろ必要になってくるのではないかと思います。


【最終的な狙い】
 いい加減、「周りに嫌がられてはいけないので○○配列にしました」という状態は過去へと追いやっていただきたいのです……人間は機械ではないし、日本語入力(特にモード変移絡みの不備)が原因でユーザ同士がけんかするという状況はあまりにも間抜けすぎますので。
 個々人が自分にあった持ち味のペンを選びつつ替え芯は規格品を採用するように、個々人が自分にあった持ち味を持つ工具を選びつつ工具の先は統一規格を採用するのねじなどを回せるように……文字入力環境の世界にも、自分にあった特性を持つキー配列やキーボード・記述ツール類を採用しつつ、最終的な文書は適切な汎用フォーマットが採用される時代がきて欲しいと願っています。


 ちなみにこの文章、鈴見咲さんが「姫踊子草の楽屋裏」を始めるきっかけ?になった「JISX4064素案公開レビュー」という記事を見てから書いていることは秘密^^;。