今必要なのは「道具性のあるけん盤配列セット」なのかもしれない。

(過去:はてな質問の【普段使う入力方法で「あすか」と入力するときには、どのキーを叩きますか? x あなたの利き手はどちら側ですか?】に関する回答を締め切り。 - 雑記/えもじならべあそび)
(過去:けん盤配列は金のなる木になるのか? - 雑記/えもじならべあそび)
(過去:けん盤配列の安全性を評価するためには、どのくらいの打鍵量が必要なのだろうか。 - 雑記/えもじならべあそび)


 JIS化案向けの陳述書について、ちらっとここに書いておこうかな……と。
 ちなみに、タイトルで書いた「道具性」というのは、「個々人に合わせたチューニング済みのけん盤配列」という意味合いを強く持たせたくて書きました。
 筆記用具などをはじめとして「個人個人が好みのものを選んで使う」分野はたくさんある……のですが、それがけん盤配列についても同様に扱われる世界を目指そうとすると、「けん盤配列=道具」という結び付け方をしてしまうほうがよいのかも……と考えているものですから。
 そういった「道具性」を示すためには、少なくとも「ある程度候補を絞り込んでいながら、かつけん盤配列の多様性をパッと認識できる」ように、基本的なけん盤配列セットを提示するほうがよいのではないか、と考えました(全部!にできなかった、という理由は後述)。


 私は、次の入力法が使えるようにして欲しい……ということを陳述書に書きました。

  • JIS X 6002かな入力。
  • JIS X 6002/JIS X 4063ローマ字入力
  • ネーブルウェア(特にイネーブルハードウェア)向けの「物理鍵盤専用インターフェースとしてのけん盤配列」を少数。
  • 旧商業系けん盤配列のうち、主要なものを一揃い。
  • 「ユーザー定義のキー配列定義ファイル」で記述した私製配列(ここが超重要)。
  • ロマかな&行段系のうち、左手に負荷がよってるもの(性能評価をして一つ以上)。
  • ロマかな&行段系のうち、右手に負荷がよってるもの(性能評価をして一つ以上)。
  • ロマかな&行段系のうち、負荷がよっていないもの(性能評価をして一つ以上)。
  • かな系のうち、左手に負荷がよってるもの(性能評価をして一つ以上)。
  • かな系のうち、右手に負荷がよってるもの(性能評価をして一つ以上)。
  • かな系のうち、負荷がよっていないもの(性能評価をして一つ以上)。
  • 漢直系のうち、連想入力法によるもの(性能評価をして一つ以上)。
  • 漢直系のうち、非連想入力法によるもの(性能評価をして一つ以上)。
  • 速記系のうち、実装可能なもの(性能評価をして一つ以上)。

 これを「Alt+かな」でぐるぐる回していったら使い勝手が悪くなる……ので、「Alt+かな」で選択メニューを出して欲しい、という要望もつけています。
 速記系についてはうまく分離することが出来なかった&どういうエンジンが必要なのか把握し切れていないので、ちょっと微妙なところがある……のですが、ほかについては「道具性を確保するために必要な区分け」をとりあえず提案してみたつもりです。


 「性能評価をして一つ以上」というのは、カネと時間を掛けて大量評価打鍵をする……というところは推奨レベルとしていて、必須レベルについてはあくまでも「レビューで蹴られないことだけを満たせればよいので、標準時間法あたりでの簡易評価でも良い」という雰囲気で書いています。
 現実的な問題として、ここで選ばれるか否かというのは「あまり重要な点ではない」と考えています。要は「どういう考え方のけん盤配列があるのか」というところの姿が見えるような候補が立てば、あとは自動的に物事が進むだろう……と。
 旧商業系けん盤配列を除くものについては、「旧商業系けん盤配列よりも数値評価が高いもの」に限って候補になり、そのなかでいちばんスペックの良いものが少なくとも選ばれるであろう……と考えています。
 仮にこのルールで進んだ場合、【かな系のうち、右手に負荷がよってるもの(性能評価をして一つ以上)。】と【かな系のうち、負荷がよっていないもの(性能評価をして一つ以上)。】については、どの配列が選ばれるのか……というところは、私には全く予測も出来ません。というか、たぶん「一つに絞りきる」事自体がかなり難しい(評価関数によって結果がかなり振れる可能性がある)と考えています*1
 十分な調査をしてから検討に入るらしいので、その間に評価関数についても何らかの進展が見られるかもしれません。


 ちなみに、ものすごく層が薄そうな【かな系のうち、左手に負荷がよってるもの(性能評価をして一つ以上)。】の条件については、もしかすると「かえでレフティあすか」が選ばれるかもしれません……が、個人的にはかえでレフティあすかではなくて、ここには「きちんと【左手側に負荷を寄せた配列を希望される方】の手によって設計された配列」が選ばれることを期待したいと考えています*2
 「右利きの相沢かえでが左手負荷寄せ配列を作るなんて何事だッ!俺がかわりにいい物を作ってやるぜ!」と言って下さる方が現れることを期待したいところなので、ここについては隠すことなく書いておくことにします。
 #実際問題として、(セットである「かえでライティあすか」が載らないのは確定なのに)かえでレフティあすか「だけ」が載ったとしても、まず役に立たないですし……そういう意味でも、「よりマトモな候補」の存在が必要だと考えています。


 ……で、ここまで書くと「計算上の性能で配列を選別するなんてけしからん!」という話になると思います(というか、私が読み手なら絶対ツッコミますし……)ので、その点についても。
 もともと、上記のような「入力法に関する実装・選別方法の話」を後半に7ページ分書いたのですが、その前の前半7ページ分については

  • 全員が最大満足を得つつ使える「唯一のけん盤配列」なんて存在しないッ!

ということを、1ページごとに視点を変えつつ書いています。
 奇跡的にも私の提案が通ることがあれば、たぶん規格書の解説部分冒頭には

  • どうせ全員が満足できるユニークけん盤配列なんて作れないから、かわりに「配列を載せる仕組み」と「参考配列(=上の条件で選ばれたもの全て)」を規定しました。

くらいの勢いで解説文章が載るのではないか……と考えています。
 あと、「参考配列(=上の条件で選ばれたもの全て)」に関する「計算上の性能」については、たぶん規格書解説部分で「全配列が公平に、さらしものになる」と思います。ここでは「現行のJIS計配列&旧商業系配列」にとって、かなり厳しい評価が出るだろうと予測しています……が、「配列を載せる仕組み」を支えるためには「どういう配列が設計可能なのかという具体的な事例」が必要なので、これはどうしても外せませんでした。
 #もっとも、配列評価については「数値によって【万人にとって合致するかたちで】リニアに表現できるわけではない」ところがヤヤコシイわけで……。


 結局のところ、

  • 規格表には「(付属の測定結果から見て)そりゃあ、この配列なら載っても文句は出ないだろう」というものが載る。
  • ほかの入力法も、手作業で配列定義を読ませてやれば、きちんと使える。

というあたりが実現するように願いつつ、14ページの文章を記述しました。
 個人的には「全部載せて欲しい!」と思っていても、JIS規格票という場所でそれをやるのはさすがに無理があるだろう……と。
 そうすると、「この規格を使って、どういうことが出来るのか」を示すためのサンプル配列を提示するほうが、より役立ちやすいのではないかと感じています。
 もっとも、「性能がよい配列=使いやすい配列」だとは限らないという事情もある*3のですが、そこは「規格側で決めようとしても無意味」なのかもしれません。


 ハードウェアけん盤配列がバラバラだった時代には、「けん盤配列の混乱は市場に混乱をもたらす」という風に認識されていたのかもしれません。
 慣れた操作形態が「他の機械では使えない」となれば、それは混乱して当然でしょう。初期のカナタイプライタではそういったけん盤配列が乱立していたようですし、ワープロ専用機でも似たような状況に陥っていたはずです。
 ただし、今回はそういった「かつて混乱してきた時期」とは、根本的に状況が違うはずです……ハードウェア的な「規制」とか「シェア争い」といったこととはほとんど無縁に、ソフトウェア的な技術を用いて「多様性」を認めたまま「出来うる限りを再現」しよう、ということが出来る時代になったはずなのですから。


 私(1979年生まれ)の一つ下の世代は、既にまっとうな情報教育を受けているので、けん盤配列を使いこなす上で支障はないかもしれませんが、それよりも上の世代が生きている間は、どうしても「50音順配列のような単純構造配列に対する要求」は消えないでしょう……いま三十路前後の人間が平均寿命を迎えるまであと半世紀もあるわけで、その間延々と「けん盤配列が覚えにくいことが原因で」情報格差が表れることは避けるべきだと考えています。
 また、私のように「十代でけん盤配列に触りだし、二十代で不安を覚え、三十路前に入力法を移行した」とかいうシーケンスをたどろうとする方が、これから先現れないとも限らないわけで……私(三十路直前)の一つ下の世代はいま二十代にさしかかろうとしていることになるので、これから10年ほど掛けて少しずつ、そういった声が聞こえてくる時代へとシフトしていくようになるのかもしれません。


 ……はじめは評価基準として適切なものが他に見つからないので、とりあえずはこんな感じで提案させていただいたところです。
 もしもこの手のものが実際に実現したとして、利用者側から【○○配列の定義もはじめから入れておいて欲しい!】とかいう話が多くでるようなものが出て来れば、そういったけん盤配列は(規格票にとらわれることなく)メーカー側では採用されていくでしょうし、将来はそれも規格票へと反映されるでしょう……と、そのあたりの「市場任せの広範囲な評価打鍵」にも期待しつつ。
 まずは「環境」と「多様性がある初期候補」が必要、と。

*1:「どの入力法でも、基本的に入力速度(≠打鍵速度)は変わらない」=「入力法によって打鍵速度(≠入力速度)が変わる」という話を無視して「全ての入力法に対して同じ打鍵速度が出るものと仮定して標準時間法を当てはめた」場合には、「下駄配列か姫踊子草入力法」のうちどちらかが、ぶっちぎりの好成績で選ばれますね……特定の入力法に対する補正ウェイトは提案していない(=実際の打鍵時間からそのまま計算されるはずです)ので、評価方法が同じならば、操作数がぐっと少ないこの二候補が、ともに選考落ちするという可能性はないはず。「拡張かな系」と「単字かな系」と「清濁分離かな系」のそれぞれについての評価結果を見比べると、「どういう風に配列を評価したのか」というところが透けて見えるはずです。ちなみに、真面目にやればやるほど「拡張かな系」と「清濁分離かな系」が近づいてきて、そこから少し遅れて「単字かな系」が……という順序になるのではないかと考えています。

*2:ローマ字系は「ACTの途中版だけで左右両方の要求を満たせる」はずなので、現状で既に候補は出せそう……なのですが、かな系ではまだ「本気の負荷左寄せ配列」が設計されていないものと記憶しています……個人的にはこの状況、ちょっとまずいのではないかと感じています。

*3:「飛鳥カナ配列」をわざわざ崩して「かえで****あすか」を作った身としては、そもそも「配列の性能って何?」という疑問を立てるところから始めなきゃいけないようにも感じています……ってソレでは根本的すぎてダメじゃん。