BTRONにおける入力方式 −TRONキーボードの設計−メモ。

(未来:メモ。@2007年08月12日)
 ざっと読んで適当に拾ってみました。もし興味がありましたら、現物を読んでみてください。

  • ローマ字入力系(たぶん非拡張ローマ字入力のことを指しているのだと思う)は「暫定利用向け配列」として検討の対象外、漢直は「コピーライティングには有利だけど、練習が大変そう」……と。その結果としてかな配列を設計することに。
  • TRONキーボードの運指範囲測定では「手首を固定して」測定した。親指について測定するときはほかの指を固定しているし、ほかの指を測定するときも必ず一本以上の指を固定したままで測定している(詳細は文献を参照のこと)。この理由は「タイプライタじゃないんだから、手首を浮かせる必要なんてないでしょ。浮かせずに打てる範囲にのみキーを置けば、浮かせるか否かに関わらず楽に打てるキーボードになるじゃん(注:かなり意訳)」らしく。完璧に20年後を読んでいたわけか……。
  • キーピッチは従来の考え方に縛られたくはない。
  • TRONキーボードは、手のサイズに合わせて(靴に複数のサイズがあるように)複数のサイズを提供する必要がある、という話も。
  • 調査対象は「清音かな+濁点+半濁点+α」。NICOLAがどうだったのかはまだ調べていないけど、ここは新JISと同じ。
  • 割り当て方針は「最上段は使わない・中段→上段→下段の順で優先・2字連糸は交互打鍵に・指の連続使用を避ける・使用頻度は人指→中指→薬指→小指」……と、ここも新JISと同じ(始めのほうでは人指と中指を同等に扱うかのようにかいているが、後に人指優先で配置していることが明記されている)。
  • 文字頻度データは「ビジネス系単行本・ビジネス文書・PCマニュアル」から採用、160万文字。
  • 文字配列は「完全分離(飛鳥が取った方法)」「JIS方式の濁点分置」「濁音・半濁音シフト法(NICOLAが取った方法)」「打鍵の強弱で清音と濁音を区別する方法」が検討された。
    • 「完全分離(飛鳥が取った方法)」――(Rayさんも指摘していたけど)キートップの見た目が雑然とする&習得時間が長くなる……で、(NICOLAの時と同じく)検討の前段階で除外(泣)。
    • 「JIS方式の濁点分置」――濁点だけ頻度が高く、半濁点は頻度が低い……半濁点キーは別置きでもいいんじゃない?濁点キーは微妙だけど……と、そんな感じ。
    • 「濁音・半濁音シフト法(NICOLAが取った方法)」=「打鍵の強弱で清音と濁音を区別する方法」はシフト方式が異なるだけ。
  • 出現頻度の高い文字はアンシフト側に配置した(新JISと同じ考え方)。変換キーは右手に置くと決めたので、文節区切り(変換キー操作)直前によく来るかな(2字連糸の2文字目)は左手に置くことにした……ので、結果として2字連糸の1文字目は右手に来た。シフト側は、2字連糸の2文字目がアンシフトにある場合は「シフト側文字→アンシフト側文字が交互打鍵になる」ようにした。
  • 「濁点分置」と「濁音シフト」の2配列を製作し評価したところ「濁音シフト」のほうが高評価だったので、そちらを採用した。
  • 「段の頻度分布」と「指の頻度分布」グラフを、「TRON・新JIS・NICOLA」の3種並べている。新JISのみ傾向が異なるのは、元となった頻度のベクトルがTRONのそれとはズレているためかもしれない。一番人差し指を使うのはTRONで、NICOLAは右手親指を25%使う……とか。
  • 新JISの「小指外方シフト」は、キーの段組そのままに「下段キー」として評価した(センタシフト新JISではなく、サイドシフト新JISが評価対象となった)……そのため、下段使用率が上段使用率よりも高いと結論付けられた。でもそれ以外は健闘しているよね!という評価。
  • NICOLAは「清音の裏は濁音化しない清音」という方針を採ってしまったので、ちょっとシフトが多いよね……という評価。坂村教授的には「もっと人差し指に負荷を掛けてもいいんじゃないの?」と……それがTRONの「人差し指に18%頻度を割り当てる」結果に至ったらしく(同データでは、NICOLAの人差し指利用頻度は15%近傍)。
  • TRONかなで「同指連糸打鍵は避けるといっていたのに、なぜか人差し指だけ同指連糸を多発させている」のは、ミスではなく「狙ってやっている」……人差し指側をかさ上げしているキーボードで打つことを前提にしているためかも。このあたりは(普通のキーボードで評価打鍵をしてきた)飛鳥とは逆の考え方なのかもしれない。 
  • NICOLAほど「中段のみで文字を打つ」事にはこだわっていない……って、それは「表面に良く使うかなを集める」方針を採ったのだから当然の結果ですな。中段連糸率はNICOLATRON→新JIS。新JISが低い理由は不明……って、「濁音化しやすいかなが左手に集まっている」事が関係しているのかも?その点については言及されていない。
  • TRONかな配列は以上の設計方針を用いたため、「新JIS並の交互打鍵率」と「(濁音シフトは使うが清音シフトを抑えて)比較的低いシフト率を目指した」……と。


 ……で、個人的に思ったことを。

  • それで「新しいμTRONキーボード」は「キーピッチ」を妥協して、「キーのズレ」はなるべく残し、「キーボードの傾き」は譲らず再現したんだ……と、なるほど納得。
  • 人差し指を重く、小指を軽く……という配列を望んでいる人にとってはベストマッチかもしれない。
  • 「どんな配列が最適であるべきか」という「配列設計者の考え方」次第で、同じような計算配列でも「ここまで異なる配列が出てくる」というのは、本当に不思議だな……と思う。


 うーん……どうまとめるべきか。
 せっかく物理鍵盤が発売されるのだから、それより前には何か書いておきたいところで。

(翌日追記)そういえば。

 . 「μTRONキーボード」の.「μ」って、TRON用語で「サブセット」なんだよなぁ。B-TRONに対するμB-TRONのように。BTRONに対するμBTRONのように。たしか「μ」について説明しているPDFもあったような。
 あと、こうやって資料を見ると、当時の製作者がリアルタイムで考えていたことが垣間見れて面白いような……カナタイプ→JISかな→NICOLA→新JIS→TRON→花→個人設計配列群の流れをうまく説明するには、まだまだ調査が必要なのか。歴史を紐解いていくことに興味がある人ははまりそうな分野かも。

2006年12月31日0:12:23追記。

 BTRON スーパー・パーソナル・コンピュータ(1985年3月28日)にて、「μ」付きのBTRONが「サブセット」扱いのために命名されたことについての言及アリ。
 ちなみに、例のμBTRONキーボードμTRONキーボードの呼び方は「まいくろ・とろん・きーぼーど」