「カナタイピストにおける指の運動特性について」と「カナタイピストにおける指の運動特性について(続報)」を見ていて気づいた、当たり前だけど注意すべきことについて。

(過去:新JISかな規格書の補完・「供試装置による4段配列とは何を指しているのか?」)
(参考:カナタイピストにおける指の運動特性について(1983年7月13日、有料) )
(参考:カナタイピストにおける指の運動特性について(続報)(1986年11月12日、有料) )

 タイプライタを使ってきた人の言うことやっていることは真面目に聞いておく観察しておくほうがいいかも、という話。


 「カナタイピストにおける指の運動特性について」でシフト側の文字が「本来シフト側にあっても正当な評価は期待できないかもしれない」文字で占められていたことは、既に書いた通りで。
 ところが、この論文は「セットで」見た場合、もう一つ面白いところがあります。
 それは「英文タイピスト2名の打鍵評価データを無視して、素人な女子大生の打鍵評価データのみを採用したこと」にあります。


 そもそもこの論文を見ていて不思議だったことがあるのですが、「英文タイピスト2名」と「素人14人」を並べて打鍵評価させ、

  • 英文タイピストは機械式タイプライタに慣れているからシフト操作が遅いだけだ
  • 素人はシフト側のほうがすばやく打てているから、やはりシフト側のほうが打ちやすいのだ

という結論を導き出してしまっています。
 実際、この論文では「タイピストはシフト側を遅く(約1.6倍掛かっている)」「素人はシフト側のほうが速く」打鍵しているわけですが、ここに関する読みが甘かったのかもしれません。


 「カナタイピストにおける指の運動特性について(続編)」を紐解くと、「素人であっても経験を積んでいくことによって、結局はシフト側のほうが打鍵速度が遅くなる」という言及が見られます。
 しかも遅くなる倍率は当初設計値の1.25倍以内(新JISかな規格書でも言及されている通り)を大きく超える1.5倍(それより前に発行された新JIS規格書の発行当時はまだ1.4倍とされていた)であり、実験回数を重ねるごとに「1.6倍へと続く緩やかな昇り勾配」を描くグラフが掲載されています。


 新JISかなにおいては「シフトは少ないほうが良い」という方針で、真っ先に高頻度かな文字セットをアンシフト面に割り付けたがために難を逃れたものの、もしも打鍵評価で得られた数字だけを元に総当りで配列設計をしていたら、相当にトリッキーな配列が出来上がっていた可能性があります。
 【だから計算配列はダメなのだ】などと言うつもりはないのですが、逆に計算配列を作るならば「よほど注意深く観察しないと、とんでもない誤解を抱えたまま配列設計をしてしまう可能性が出てくる」可能性はありそうです。
 そこを克服することができないと、計算による配列の設計は苦難の道のりを歩むことになるのかもしれません……なかなかに難しいですね。


 #とはいえ、将来的には「暗号破り」と似た理屈で計算可能な方法論が見つかる可能性はあると思っています。もっとも、「日本語と配列の仕掛けを理解している」人であり、かつ「データ処理」に明るい人でないと難しいのかもしれませんが……。

で、なんだかんだと文句を書いてみるわけですが

 【ではあなたはこれよりも正しい測定ができるのですか?】といわれると、それははっきり言って無理です。
 正直言って、こういうのは「ロボットコンテスト」とか「プログラミングコンテスト」のように、同好の面々が集まってワイワイガヤガヤとやる方が向いている気がするんですよね……。
 一人でがりがり研究しても絶対に穴は出てしまうわけで、「色々な人の視点」はどうしても必要になると思います。