(memo)手捏ねで製作された鍵盤配列には、作者が『言っている』とおりではなく『やっている』通りに「未来のユーザーさんに対して、どうやってこの配列を習得して欲しいか」という意図が入ってくる。
手捏ねで製作された鍵盤配列には、次の二つの方法のうち、どっちを選択してもらいたいか……ッて意図が「非言語的に埋め込まれている」ような気がする。
- タイピングソフトを使って、低頻度カナを強調練習するようにしつつ習得してください。
- 普通の自然文を使って、入力しながら習得してください。
鍵盤配列の低頻度カナに対する配字姿勢は、作者によって変わる……ってゆー表現だと怪しいのだけれど、「どうやって練習することを期待している配列であるか?によって変わる」となれば、相当スッキリと整理できそうな気がする。
計算配列の場合には、こういう区分はないから、どっちなのかはわからない、としか言いようがない……のだけれど、手捏ね配列の場合には、ここを明らかにするというのは、『配列の性質』を表明するうえで、良いポイントになるのかも。
- タイピングソフト、もしくは手作業によって、低頻度カナを強調練習することを期待される配列。
- 普通の自然文を使って、入力しながら習得することを期待される配列。
この2つの分類で区分すると、鍵盤配列における配列自体の難易度とかの問題も、わりとシンプルに整理できる……のかもね。
覚え方に関しては、たとえば「飛鳥カナ配列」は前者だし、「かえであすか」は後者……と。
こーゆーのは、『覚え方・使い方・維持の仕方』の全てに絡んでくるのかも?
ちなみに、表題に【作者が『言っている』とおりではなく『やっている』通りに】って書いた理由は単純で、作者自身が「配列が出来上がった理由」について知っているか否かが、ここには全く関係してこない……ってところにある。
人間って、どうしても言ってることとヤってることが違うときがある……けど、そんな時鍵盤配列は【作者が『言っている』とおりではなく『やっている』通りに】仕上がるものだし。
作者の人間性──とくに『動き・働き』──が、鍵盤配列にまるっと記録されちゃう……ってところが、手捏ね配列の恐ろしいところだと思う。
個人的には、タイピングソフトを使って配列の評価打鍵を代替すると、頻度設計が自然文から『ズレてしまう』──というか、指の強度が「何も訓練していない」時とは違うものになってしまう──ってところが怖くて、評価打鍵するときには「絶対にタイピングソフトは使わない」ぐらいに、強く規制していたりする。
逆に、「そもそもタイピングソフトのために作る配列」だったら、これを自然文で評価打鍵しちゃダメで、たとえばTWW配列を評価打鍵するなら「タイピングソフトの、しかもTypewell指定で」評価打鍵するのが、もっとも正しい姿だと思う。
「かえであすか」の場合は、こーゆー考え方からすると「普段の日記書きを通じて、評価打鍵する」のが一番正しいので、結局は「うちの日記のn-gram」をもとに「日々の日記書きを通じて評価打鍵する」しかなくて、今のような配列が出来上がった……となる。
n-gramにしたがって配列を作ったときに、「配列側に何か問題が起きる」とすれば、それは『作ったn-gramと、普段書いている文体との間の、インピーダンスマッチングが取れていない』って事を指し示していると思う。
皆のための配列を目指すのならば、それこそ新JISカナのように「広いn-gramソースと、数名の被験者を元にした運指データ」のようなものが強い……けれども、作るものが「俺様配列」の場合には、もしかするとそこに厳密なこだわりを持たなくても、良いのかもしれない。
もっとも、配列作成の目的に「今は使っていない文体でも、将来使うかもしれないから、それをフォローしたい」というのを含んでいるのならば、今使いにくいことがあっても構うことなく「広いn-gramソース」を使うほうが正しい……ので、このあたりは「将来までのことを見据えた上で決める」べき事なのだけれど。たとえば「ラノベを書きたい配列屋」が配列を作るなら、ラノベからn-gramを抽出するのは、ある意味間違っていない。
#そーゆー意味では「かえであすかは、未来までは考えてない」と言える。
鍵盤配列設計において、運指データとn-gramデータは、次の要素のために働くことに注意。
── | n-gramデータ | 運指データ |
---|---|---|
働き | 文体のサポート範囲を決める | 誰が使うかを決める |
これは言い換えれば、以下のような制限があることを意味する。
- 運指データ(評価打鍵者)が一つなら、他の人のために最適であるかどうかはまったく保証できない。
- n-gramデータが偏っていれば、他の文体について最適であるかどうかは全く保証できない。
ここを履き違えると、「n-gramデータのバリエーションが、利用者の範囲を決める」とか、「運指データのバリエーションが、文体の範囲を決める」とかいう、間違った認識に至ってしまう……後者は誤解されることがないから良いけど、前者は解説を誤ると誤解される恐れがあるから、取り扱い注意……ってことで。
── | 1文体のn-gramデータ | 多文体のn-gramデータ |
---|---|---|
一人の運指データ | 「俺様・特定文体」入力配列 | 「俺様・広範囲」入力配列 |
多数の運指データ | 「平均・特定文体」入力配列 | 「平均・広範囲」入力配列 |
月配列において、たくさんの改善案が生まれているにもかかわらず、各作者さんが共通認識として「やっぱり2-263版は手強い」ってゆー評価をもつに至る理由は、かなりの割合で『元配列のJIS X6004が、「平均・広範囲」入力配列であること』によるものだと思う。
USB-DACの性質が「振幅軸×時間軸」によって決まるのと似たように、鍵盤配列もまた「文体のバリエーション数×運指データ提供者数」で決まる……ってゆー、そーゆー時代が来るのかも。
文体については平均を使うとして、運指はそれこそ「タイピングをガリガリやる人×1+タイピングをがりがりとはやらないひと×○○人」とかいう形で、なるべく『その配列が想定する、平均ユーザー群内の混ざり具合』に近づけるほうが良いのかも……*1。