STAX インイヤー型イヤースピーカーシステム SR-001MK2とは。

STAX SR-003

STAX SR-003

 納期の関係で↑は遅れそう。
 ……ってコトで、↓だけを購入。
STAX インイヤー型イヤースピーカーシステム SR-001MK2

STAX インイヤー型イヤースピーカーシステム SR-001MK2


 音質は……というと、きちんと

FOSTEX ヘッドホン T50RP

FOSTEX ヘッドホン T50RP

↑と↓の間になってる……と思う。


 こいつのダメなトコを挙げるとすると、

  • 耳が物理的に痛くなる。
    • ……これは耳栓式etcに共通する問題、なので「黄色い低反発ウレタンな耳栓」による簡易パッドが使えることも共通。
  • 発音体が小さいことが災いして「せっかくの全面駆動方式なのに、点音源感が出てしまってる」。
    • 夏場に「蒸れにくい」のを聴きたい、というときには、こういう選択肢にならざるを得ない。
  • トランス式ACアダプタを使うと「ハムノイズ」が乗ってくる。
    • 公称1.2Vの電池を3直列にしてDC入力に導入してやるといいらしい……って、始めからそういう設計にしてくれよと(以下略)。
  • (フォンジャック入力で、しかも実質8千円のアンプだけに)微細表現に漠然とした不安がある。
    • この点は、後にSR-003を手持ちのドライバへと接続してチェックしてみたいと思う。

ってところが気になる(最後のは言いがかりレベルの話だな……)という感じ。

SR-001MK2って、一体何なの?

 +565Vの静電気と、±282Vの静電気とを使って音を出す、ちょっと変わったヘッドフォンシステムです。
 最大で900V近い電位差を生むような「ヤバい」仕掛けなので、結露状態とか風呂上りとかには絶対に使ってはいけません*1


 左端が「無音状態」。1.5μmの薄い膜は、どちらにも引っ張られず、真ん中にいます。
 中央が「片方に1.5μmの薄い膜が引き寄せられ切った状態」。1.5μmの薄い膜はプラスに帯電しているので、「プラスに帯電した固定極からは遠ざかろうとして、マイナスに帯電した極には近づこうとする」ので、こうなります。
 右端は、中央の絵とまるっきり逆の状態。
 この3状態を繰り返すことにより、「薄い膜が音楽を奏でる」ことになります。


 +565Vってのは常時固定で、こいつがわずか1.5μmの薄い膜に帯電し続けています。
 ±282Vの静電気ってのは「音楽信号に連動した」もので、2つ作られます。片方は音楽信号を「単純に拡大したもの」であり、もう片方は「波形を鏡絵のように反転させてから、拡大したもの」になります。この2つは、1.5μmの薄い膜を両側から挟む「固定極」を帯電させるために使われます。
 イヤースピーカーの線は、片耳に対して3本の線がありますよね?アレって、「+565Vが一本、±282Vが一本、±282Vを反転させたものが1本」通ってるわけで。

 普通の「ダイナミック方式」ヘッドフォンでは、膜の部分に「ボイスコイル」という「電線を巻いたもの」を貼り付けていて、その外側に置く永久磁石との間にできる磁力を使って「直線的に往復運動をする、モーター」として音を出します。この構造では「発音体と、ボイスコイルとを足した重量を動かして、初めて音が出る」仕様になるので、どうしても「動かすべき質量」を減らすには限界があります*2
 それにたいしてSR-001MK2では、「磁力によるリニアモーター」ではなく「静電気によるリニアモーター」によって音を出すため、発音体は自身を支える強度さえあれば良く、ボイスコイル相当品を支える必要が無いため、発音体自身を「製造技術と、取り扱いの丁寧さに依存する範囲で、極端に薄く作ることができる」ことになります。


 ダイナミック方式とはちがって「力強い音」を出すには向いていない……のですが、SR-001MK2のような静電方式には、「慣性に負けて埋もれてしまうという音が、とても少ない」という特徴があります。
 ドライバユニットを極端に小さくしても、慣性と戦うことはできる……のですが、そっち系ではどうしても「点音源感」が強く出すぎてしまうという問題があります。そういったものとは「違った回答」が、これにはある、と。
 楽曲については「クラシックに向く」とよく表現されていますが、基本的には「アナログ発声をする楽器や、あるいは声楽など」を聴くときに、特に威力を発揮します。
 EtymoticResearch/ER-4Sあたりから人気が出てきた「耳栓型」のような遮音性は無いので、そういう向きで使うには問題がある……のですが、遮音性を要求されない限りは、うまい具合に使えると思います。

SR-001MK2の、正しくない(笑)使い方。

 駆動にはアルカリ電池を使うのが「メーカー推奨」なのだけれど、自分で電池ケースとかを作れる人は「1.2V電池を3直列にした、3.6V出力の電池ユニット」を作って、そいつにEIAJの極性統一プラグをつけてから本機ドライバへと導入するのが吉かも。
 長時間演奏を狙うのならば、3.6V(3本)のを2並列にして「電池6本で3.6V倍容量」とかを作ってもいいんじゃないかと思う。
 家庭で聴く場合は重さが気にならないだろうから、そういう選択肢もありかな、と。


 ヘッドバンドの調整方法は、こんな感じでやること。

  • ヘッドバンドから発音体を外して、耳に付ける。
  • ヘッドバンドを眼前から耳横へと持っていって、「広げるべき間隔」を測る。
  • ヘッドバンドの頭頂部凸側に両親指を掛けるように持って、「両耳の間隔よりも、ほんのわずか狭くなる程度に」ヘッドバンドの間隔を広げる。
  • 発音体をヘッドバンドに付け直してから、実際にヘッドバンドを耳にかけてみて、圧迫感が「わずかに」あれば、それでオーケー。
  • 広げすぎたと感じたときには、ヘッドバンドの頭頂部凹側に両親指を掛けるように持って、「両耳の間隔よりも、ほんのわずか狭くなる程度に」ヘッドバンドの間隔を狭める。


 上記ギャップ調整を行ったヘッドバンドの装着時には、以下のようにやること。

  • ドライバの電源を入れる(=メインボリウムを、左に絞りきった状態から、1時間分ほど右に回す)。
  • ヘッドバンドをめいいっぱい伸ばす。
  • ヘッドバンドを真横から見て、「ヘッドバンドと、ケーブルの引き出しとを、一直線に並べ、そこから配線を30度(1時間分)前方に回す」様に、左右それぞれのユニットを回して調節する。
  • その状態で耳に掛ける。
  • 右のユニットを「可能な限り耳へと押し付けずに」軽く回しつつ、「バリ」音がした時点で手を離す。
  • 左のユニットを「可能な限り耳へと押し付けずに」軽く回しつつ、「バリ」音がした時点で手を離す。

 ……と、こんな感じ。
 普通は密閉されたかどうかの確認をするには「外の音が聞こえないかどうか」で確認する……のだけれど、こいつの場合は密閉が成立した時点で「発音体内部の可動極が、気圧差によって固定極に接触し「バリ」音を出す」ので、それが聞こえた時点でドライバを弄るのは止める必要がある……と。
 慣れてくれば、電源が入っていない(=バリ音を出さない)状態でも装着できるようになるはずなので、ここはある程度慣れるしかないかな、と。あんまりバリ音を繰り返すと発音体が破れちゃうので、取り扱いは丁寧に……。

SR-001MK2は、一般的に「使える」のか。

  • 市販の「黄色い低反発ウレタン製の耳栓」を買ってきて、イヤーピースを自作する必要があるという点に注意*3……低音は減っちゃうけど、長時間聴取には必須。
  • オンガクが好きで、「イヤフォン+イヤフォンアンプ」に2万円強出せるというひとなら、とりあえず「使える」と思う。
  • 電気(特に静電気)に関する基礎的な知識が無い場合は、取り扱いにわりと慎重にならないとまずい気がする。
  • 30代以降が使ってもSR-001MK2のよさは解る……と思うけど、こいつがホントに対象にしてるのは「10代後半〜20代前半」なんじゃないかと思う*4*5

 ……個人的には「ヘッドフォンにハマり始めちゃったひとが、目を覚ますため」に使って欲しい気もする。
 ヘッドフォン難民をやっていると「たかが2万円」になってしまいがちなのだけれど、「2万円でどういう音を得られるべきか」ってところの、ある種の基準にはなるんじゃないかな……と。
 こいつに限らずSTAXの製品は「アンプとヘッドフォン自体がセット」で成り立つものだから、ヘッドフォンを評価するうえでやっかいな問題となる「アンプとヘッドフォンの関係」を回避できるので、本来はこういうのが基準機器になっていなきゃ変だし。
 #もっとも、ヘッドフォンも「けん盤配列と同じ」に「好き嫌いの問題が多分に絡む」から、人によっては「SR-001MK2が2万円台の基準機器になるわけ無いじゃん」と感じるかもしれないですが……。

*1:もっとも、「高温多湿な環境の日本で」1960年以降50年にわたって商売として成立しているぐらいですから、結露と風呂上りを除いた「通常使用」では問題など発生しないわけで、あまり心配する必要はないわけですが。

*2:発音体となるフィルムは「自身が破れずに済む強度を確保する」だけでは不十分で、「ボイスコイルを支える強度を確保する」必要があります。しかも、ボイスコイル自体にも質量があるため、どうしても発音体周辺が重くならざるを得ません。

*3:付属のは、LもMもダメだと思う……密閉性は得られても、耳が痛くなるのは同じ

*4:耳の感度が落ちた現在となっては、正直こいつを正当に評価する自信が無いんですよね……以前入手した時点で「鳥小屋試聴記」にレビューを書いて置けばよかったと、激しく後悔しているところで。

*5:鳥小屋では、真面目に書いてなかった( http://www.eurus.dti.ne.jp/~yfi/reviews/review_earphone_inserts.html#STAX/SR-001Mk2 )んですよね……どんだけダメなのかとorz。